秋田大学医学部5年 山本真央さん

現在、秋田大学医学部5年(インタビュー当時)です。これまでの講義授業では一通り専門領域の勉強をしてきました。私は、内科よりも、どちらかというと手術などの手技を磨きたいタイプのため外科を志望しています。ただ、選択科目では「総合診療」を選び、これまでに5週間ほど勉強しました。

「総合診療医センター」での学びはどのようなものですか?

「総合診療医センター」は、総合診療医や総合診療の分野への道を学生に開く支援にも取り組む施設です。当センターでは、カリキュラムに組まれた講義や実習が行われています。

新患外来で問診を取ったり、外部の病院で往診に同行したりする経験などを積んでいます。総合診療科が、ほかの専門科と異なる大きな特徴の一つは「問診」です。総合診療医は、文字通り、患者さんの頭のてっぺんから足のつま先まで全身について問診するのですが、これにとどまらず、患者さんの家族関係や職業、生活環境などにも目を配っています。さらに、カンファレンスにおける時間の使い方も、ほかの専門科とは全く異なります。これらは総合診療ならではの難しさを感じた部分です。

5週間の実習では、ICTラウンド(感染制御チーム)や漢方の処方など、ほかの専門科ではほとんど学ぶことのない分野も深く勉強することができました。当センターには、さまざまなシミュレーション機器もあるので、もう少し機器の練習する機会が増えればうれしいですね。

問診のスキルはもちろん、患者さんとその家族との接し方など、私が総合診療で学んだことは、将来、ほかの専門分野に進んだとしても生かしていくことができるものと思っています。

総合診療部の医師の印象はどのようなものでしょう?

患者さんの全身から生活環境まで、長い時間をかけて、親身になって問診する医師が多くいらっしゃいます。当院の患者さんは、ほかの病院から紹介されて来院される方がほとんどなのですが、体調の悪い原因がはっきりせず、患者さんの話をしっかり聞かないと原因が特定できないことも多いのです。そのため、コミュニケーション能力の高い医師が多いのだと思います。性格は、穏やかで優しい先生が多い印象ですね。

総合診療医に向くのはどのような学生だと思いますか?

そうですね…文献の検索などを含めて、根気強く調べられるような人でしょうか。私の友人で総合診療に関心を持っている学生は、専門を決めずに、いろいろな疾患を診ることなどに関心が高いタイプのようです。ほかの専門科とは異なる幅広い分野を横断しながら診療する必要もあることから、考えることが好きな学生にも向きそうです。また、ほかの専門科以上に問診が重要なことから、コミュニケーション能力が高いことも求められそうです。あとは、やはり穏やかな性格の人が向いているように思いますね。

特任助教 嵯峨亜希子先生

当科は秋田県内でも特に高度な医療を提供している大学病院の診療科ですので、県内の一次・二次医療機関で診断に難渋した症例が紹介されてきます。各地の経験豊かな医師達によりすでに精査が行われたにも関わらず紹介されてくる症例の診療は、毎回難しいミッションとなりますが、より詳しい病歴聴取と患者ニーズの把握を行いながら、複数の医師で議論して診断をつけています。紹介患者以外にも、臓器横断的な症状のため受診先が分からずに大学病院を訪れる患者さんもいます。例えば、「倦怠感」「長引く微熱」「体重減少」「ほてり」「寒気」「ふらつき」といった症状ですが、その初期診療も担当しています。

その他には、海外渡航前の人向けに英文診断書の作成、海外で注意すべきことの指導、ワクチン接種などを行う「渡航外来」も担っています。日本渡航医学会が認定しているトラベルクリニックは2021年6月の時点で東北地方には6件しかなく、秋田県内では当院のみです。

これまでの経歴を教えてください

秋田大学医学部を卒業してから、当時の初期研修医として3年間勤務しました。その後、秋田県外で循環器内科の大学院生として研究と臨床に携わりました。

大学院修了後、結婚して上京、育児に専念していた時期を挟み、横浜市内の民間の総合病院で一般内科医として勤務しました。都会にある病院で、外来・入院いずれも受け持てたことは、とても良い経験でした。

いずれは郷里で働きたいとの希望があったことから帰郷しました。ちょうど、研修医時代の指導医の先生が声をかけてくださり、その先生が開業した医院の外来を任せていただきました。半年以上の間、個人医院の一人医師という立場で外来業務をする中で、自分の技量不足を痛感し、総合診療やプライマリケアを学び直したいという思いを持つようになったことから現在に至ります。

循環器内科から総合診療の領域に入られたのですね

循環器内科医を目指していた大学院の4年間は、本当に循環器のことばかりでした。循環器内科では胸が苦しいと訴える患者さんを診察し、心臓や大血管が痛みの原因かどうかを診断するのが大事な業務の一つです。ただ、幸いにもその患者さんに循環器の異常がないと分かった場合、痛みが続いていたその患者さんがどうなったのかについては知らないままでした。一方で、診療所では多くの患者さんに対応しなければならず、また、設備の関係などから診療の内容には限りがあり、診断を突き詰められないことが多くありました。その点、大学病院では、各臓器・組織の専門の先生たちが院内にはたくさんいらっしゃるため、必要時にそういった先生たちにコンサルトもしながら、一見すると不可思議にも思える症状の患者さんに診断を付けていくことができるようになりました。毎週のように新しい症状や疾患に触れることができ、まだまだ知らないことが多いということに知的好奇心が刺激され、循環器内科時代と同じようにとてもエキサイティングに過ごせています。

大学病院の総合診療部は、秋田県内唯一の特定医療機関という特殊性から、総合内科に近い業務になっています。本来、総合診療はプライマリケアの要素が大きいものです。では、大学病院では総合診療・プライマリケアを学べないかというと、そんなことはありません。プライマリケアを実行するには、その症状や異常を放置していたらどうなってしまうのかという最終形態を明確にイメージできることが必要です。それを知らなければ、プライマリケアの場面で患者さんに治療の意味を伝えることも予防に努めてもらうこともできません。それを学ぶのに大学病院はとても適していると思います。

首都圏と地方における総合診療の必要性や役割に違いはありますか?

首都圏では雪もほとんど降らないことから年間を通じて専門家へのアクセスがとても良好です。そのため、もっと適切な診療を受ける機会を奪わない、という視点から、自分の専門以外の疾患は早めに専門家に紹介する、あるいは最初から診ないのが親切な診療とされていた感じがします。しかし地方でそれを行うことは当然のことながら、親切にはなりません。地方で働く医師には、より幅広く、より高い診療能力が求められます。見方を変えると、地方で働くほうが様々な疾患を診療せざるを得ない状況に置かれるため、自然に能力が備わってくるという側面もあります。一方で、少し前までは東京に行かなければ聞けなかった講演会や研究会が、Webで観られるようになりました。そういった意味では都会と地方の差は減っていると思います。

総合診療医に向いている人とはどのような人でしょう?

人の話を聞くことを苦にせず、情報を共有することに長けている人でしょうか。患者さんの話をよく聞き、医師と看護師が情報を共有したり、確認したりすることは、総合診療医として重要なことです。

また、広く地域の人々と接する機会を持ち、一般的な感覚に触れることで社会を知ることも総合診療医に必要なことです。このような経験を積み重ねることで、患者さんと少し会話を交わすだけでも様子のおかしいことに気が付けるようになっていきますし、目の前の患者家族の置かれている状況をより早く捉えられるようになります。総合診療医としてのスキルは、生活全般からもアップデートできるのが特徴だと思っています。

総合診療医としての展望を教えてください

総合診療的な能力を持つ医師を増やすのが総合診療医センターの使命です。それが秋田県の医療をより良くすると信じています。若い皆さんに私が今感じている生きがい、やりがいを伝えていきたいと思います。

ワークライフバランスは重要なテーマの一つです。総合診療的な視野を持つ医師が増えれば、大病院への一極集中が緩和され、医療関係者のワークライフバランスがとりやすくなり、そのことは牽いてはサステナブルで満足度の高い医療体制に繋がっていくと考えます。若い医師には、そのあたりのサポートもしていければと思っています。

専攻医 松本奈津美先生

秋田大学の総合診療プログラムの専攻医1年目(インタビュー当時)です。当院の総合診療プログラムは4年間で、内科が1年、小児科と救急がそれぞれ3カ月、地域の診療所規模の病院と病院の総合診療を合わせて1年半以上経験する必要があります。現在は、内科のローテーションとして血液内科で診察に携わっています。

総合診療医を志した経緯を教えてください

秋田大学医学部を卒業後、大館市立総合病院で2年間研修医として働きました。私は、もともと田舎が好きなことから、地域医療に携わるために何でも診られる医師になれればと考えていました。ただ、秋田県内では、内科や外科の医師が地域の診療所に勤務する形態が多く、総合診療医はほとんどいないことから迷いもありました。

そのような折、総合診療が専門の千葉県館山市のクリニックを見学した際に「家庭医療の勉強をするようになってから、外来での『打率』が上がった」との話を指導医から聞きました。「打率」とは「患者さんに合った診療を行うことで役に立つことができた確率」とのことでした。そもそも私が医者になろうと思った理由は「人を幸せにしたい、幸せの根底にある健康を守りたい」と考えたからでした。こちらの病院で聞いた話に可能性を感じ、また、2人の先輩医師に背中を押されたこともあり、総合診療医の道を選びました。

実際に総合診療に携わっていかがですか?

医学的な知識も総合診療のための技術もまだまだ足りないため、診療で迷うこともあります。そのようなときに経験の豊富な医師に相談すると、目から鱗が落ちるような答えをいただくことがあります。どのような場面で、どのような「考え方」をするのかについて勉強させていただいています。

診療をしていると、医学的な問題だけでは解決できないことや、医療的には正しいことでも、患者さんにとっては最善の選択ではないというような壁にぶつかることもあります。特に高齢者が多い秋田では、最先端の治療が必ずしも最良の答えにならないこともあります。そのようなときに、より適切な判断を選択するためには技術があって、それを学ぶことができるのが面白いと思っています。

「総合診療医センター」は総合診療医を目指す人の支援を行っていますね

総合診療医は、いい意味で医師らしくない、とても気さくで話しやすい先生が多いです。話しているうちに、思わず本音を話してしまうこともあります。医師である前に、一人の人間として勉強させていただいています。

現在、私を含めて3人が総合診療医のための専攻医プログラムを受けていますが、まだまだ少ないのが現状です。やはり、スタッフが多いほど対応できる業務も増えるはずなので、専攻医がもっと増えればいいなと思っています。

どのような人が総合診療医に向いていると思いますか?

総合診療の勉強は、病気だけではなく、患者さんの趣味や嗜好、生活環境、家族構成などまで広く考えることや、診療の選択、マネジメントに関しても勉強します。私自身もそうでしたが、特定の病気や臓器などよりも、人の体全体や人そのものを診たいと思える人が向いているかもしれません。自分の考えを人に押し付けるのではなく、人の話をちゃんと聞ける人、患者さんを人として受け入れ、接することができるような人に選んでいただければと思っています。

将来の展望を教えてください

地域医療に携わるために何でも診られるようになって、いずれはどこかの診療所で、地域の皆さんに頼ってもらえるような医師になることが目標です。まずは自分が今いる場所で、その場その場で適切な医療を提供できる医師になれるよう頑張っています。

特任助教 佐藤佳澄先生

秋田大学医学部医学科を卒業し、当病院などで2年の研修を終えた後、救急医として勤務して今年で5年目になります。現在、当大学医学部附属病院に併設され、幅広い領域の病気を診る総合診療医の養成拠点「総合診療医センター」に所属しています。

日常的には、救急専門医として救急外来の対応に当たっています。さらに、集中治療室では、病気の種類を問わず、重症度の高い急性期の患者さんを診ています。

最近は、研修医や学生向けの講師も務めており、臨床現場で研修したり、講義を行ったりすることのほか、外部の病院へ出張して救急診療関連のスキルトレーニングにも取り組んでいます。

また、地震や河川の氾濫など災害のほか、例えば、最近では新型コロナウイルス感染症の拡大が発生した大型客船における対応などに当たる災害医療チーム「日本DMAT」にも所属しています。

救急医を目指した理由を教えてください

学生時代は特定の臓器に関わるのではなく、全身性の疾患を扱う内科、特に血液内科に関心がありました。その後、研修医として働くにつれて、重症度の高い患者さんを総合的にマネジメントする救急・集中治療に携わりたいと考えるようになりました。秋田県内には、もともと生え抜きのジェネラリストがとても少ないのですが、特に若手の救急医は全くいないという状況でした。私は、幅広い患者さんに対応できる医師を目指していたこともあり、集中治療を専門とする医師になりたいとの思いを強くし、現在にいたります。

救急医としてのやりがいと総合診療医の関係を教えてください

救急医としては「この治療が失敗したら患者さんを救うことができない」という差し迫った局面に何度も向き合いました。そして、患者さんがなんとか助かったときには、大きなやりがいを感じます。また、日々、緊急度の高い状況に向き合っているため、判断力がどんどん磨かれていくのを感じています。判断力は、救急医の技術のひとつだと思っています。

また秋田県は全国的に見ても高齢化が進んでいますが、一般に高齢者は、体に抱える問題が多岐にわたる上、ご自身の症状をうまく説明することのできない傾向があります。侵襲的な治療をどの程度施すことが最適かといった患者個別性の高い問題もあり、高齢者救急は特有の難しさとやりがいがあります。

総合診療を救急医の観点から見ると、さまざまな病態の患者さんに対応しながら適切な判断を下していくという側面は共通しているのではないかと考えています。また、総合診療医を養成する際に救急医療を学ぶ効能は、ほかの点にもあると考えています。どのような状態の患者さんを救急医療機関に紹介するべきか、そして、どのような経過で再び自分の診療現場に戻ってくるかを知ることができるという点です。

「総合診療医センター」と総合診療の現状と展望を教えてください

秋田県には救急医療、急性期医療という側面における総合診療のキャリアや教育を担う、生え抜きの若手医師はほかにいません。また秋田県内の若手救急医としてもキャリアの先陣を切っているという状況です。

かつての総合診療医というと、ほかの専門を持つ医師が総合診療医に転向するケースが多かったようですが、近年では、当初から総合診療医としてキャリアをスタートさせる医師が増えているのが全国的な傾向です。残念ながらこの点において、秋田県は遅れを取っているのが実情です。これからますます高齢化が進み、多重プロブレムを持つ患者さんが増加する秋田県には、総合診療医の養成は大きな課題です。

私の専門とする救急・集中治療分野も総合診療の一側面と考えると、この面でも課題は多くあります。救急・集中治療の専門的な担い手は秋田県内には数えるほどしかおりません。特にこの傾向は郊外にゆくほど顕著であり、救えるはずの患者さんを失ってしまうことのない地域にしていく必要があります。救急医や集中治療医の人数を増やして、私たちの能力を高めるということはもちろん、郊外まで患者のもとに医師が赴くことのできる診療体制など、医師や病院の少なさを補える仕組みを作っていきたいと考えています。都市だったら助かったのに、という事態をなくしたい思いで頑張っています。