院内がん登録2008からみた秋田県のがんの実態
秋田県がん診療連携協議会
秋田大学医学部附属病院 腫瘍情報センター
はじめに
秋田県がん診療連携協議会はがん診療の均てん化(どこに暮らしていても標準的な治療が受けられるようにすること)とがん対策推進のために、秋田県のがん診療連携拠点病院で行われている院内がん登録データを独自に解析し、協議会内部で検討するとともに、広く県民の皆さんに情報公開してまいります。解析に用いるがん登録データには、患者さんのお名前やご住所など個人を特定できる情報は含まれておりません。
秋田県における院内がん登録事業は2007年1月1日より始まりました。2007年のがん登録データの概要は既に公表いたしましたが、この度、2008年1月1日から同年12月31日までの1年間に新たに「がん」と診断された患者さんたちの腫瘍データを解析いたしましたので、その概要についてお知らせいたします。
1. 結果
1) 年齢階級別・男女別登録数
都道府県がん診療連携拠点病院1施設および地域がん診療連携拠点病院7施設から収集された2008年腫瘍データは6013件でした。
年齢階級別にみるとがんの発症は男女ともに70歳代にピークがみられます。20~40歳代で女性により多くがんの発生がみられるのは、乳がんや子宮がんなど女性特有の部位のがんがこの年齢に多いためです(図1、図2)。
2) 部位別・男女別登録数
部位別登録数は2007年、2008年ともに胃、大腸、肺、前立腺、乳房、食道、子宮、皮膚の順で変わっていません。全国で多い部位の順位と比較いたしますと、秋田県では胃、食道、皮膚がより多くみられるのが特徴です(図3)。
3) 主な腫瘍の年齢階級別・男女別登録数
日本人に多い5大がん(胃、大腸、肝、肺、乳腺)に加えて多くみられた前立腺がん、子宮がん、食道がんについて年齢階級別にみました。
胃、大腸、肝、肺、食道はいずれも40歳代後半から増加し70歳代にかけてピークがみられます。
前立腺がんは50歳代から増加し70歳代前半にかけてピークがみられます。
これらの臓器に対し、女性特有の乳腺および子宮の腫瘍は20歳代から50歳代に多く発生しています。
- 図4・胃がんの年齢分布
- 図5・大腸がんの年齢分布
- 図6・肝がんの年齢分布
- 図7・肺がんの年齢分布
- 図8・食道がんの年齢分布
- 図9・前立腺がんの年齢分布
- 図10・乳がんの年齢分布
- 図11・子宮頸がんの年齢分布
- 図12・子宮体がんの年齢分布
4) 発見経緯(がん発見のきっかけ)
がん検診および健康診断・人間ドックががん発見のきっかけとなった2008年の患者さんの割合はそれぞれ11%、6%で、2007年と較べてその割合は増加していませんでした。全国値はがん検診7.7%、健康診断・人間ドック8.0%であり、両者を合わせた数字は秋田県がやや上回っています(図13)。
がんの種類別にがん発見のきっかけが何であったかについてみると、がん検診であった割合は部位により大きく異なっています。がん検診・健康診断・人間ドックががん発見のきっかけとなっている割合が30%を超えているのは前立腺がんと子宮がんのみでした(図14)。
5) がんの種類別臨床病期と発見のきっかけ
がん診療連携拠点病院を治療前に受診した方のがんの進行度(ステージ、臨床病期)について、主要5部位(胃・大腸・肝・肺・乳腺)のがんおよび比較的よくみられる前立腺がん、子宮がんについて示します。
治療開始前に受診した胃がんおよび大腸がんでは、がん検診および健康診断・人間ドックで発見された胃がんの多くはステージIに集積しているのがわかります(図15、図16)。
肝がんは他疾患の経過観察中に発見される割合が高く、これは慢性ウイルス性肝炎の治療中あるいは経過観察中に発見されることが多いためであると考えられます(図17)。
がん検診で発見された肺がんは早期に若干集積しているようにみえますが、進行期にも分布しています(図18)。
前立腺がんでは、がん検診で発見された患者さんの多くはステージIIに集積しています(図19)。
乳がんではがん検診および健康診断・人間ドックで発見された患者さんは早期に分布しています(図20)。
がん検診で発見された子宮がんはステージ0およびIに集積しています(図21)。
6) 発見のきっかけと臨床病期
がん検診や健康診断・人間ドックががんの早期発見に有用であるかどうかをみるために、日本人に多くみられる胃、大腸、肺、乳房、前立腺、子宮のがんが発見されたきっかけについて解析しました。
ここでは症状があって医療機関を受診された方は「その他・不明」に分類されています。
治療開始前に受診した胃がんについて調べてみますと、がん検診や健康診断・人間ドックで発見された胃がんの多くは早期の段階(ステージI)で発見されていることがわかります(図22)。
一方、症状受診を含むその他・不明のきっかけで発見された場合、早期がんの割合が少なくなっているのがわかります。
同様に、大腸がんについて調べてみますと、がん検診や健康診断・人間ドックで発見された大腸がんの約60%は早期段階のがんでした(図23)。
一方、有症状受診を含むその他・不明のきっかけで発見された場合には早期がんが少なくなっています。
肺がんでは、がん検診や健康診断・人間ドックで発見された場合、早期がんの割合は50~60%で、有症状受診を含むその他・不明のきっかけの場合、その割合は非常に低くなります(図24)。
がん検診や健康診断・人間ドックで発見された乳がんの約80%が早期がんですが、有症状受診を含むその他・不明のきっかけの場合、その割合は低くなります(図25)。
がん検診・健康診断・人間ドックで発見された前立腺がんの約80%が限局性でした(図26)。
同様に、がん検診・健康診断・人間ドックで発見された子宮がんの80%以上が早期がんです(図27)。
7) 地域によるがん進行度の差異
がん発見時の進行度が地域によって差異がみられるかどうかみるために、胃がんと大腸がんの早期がんの割合について解析しました。胃がんでは施設間で早期がんの割合にかなり差異がみられ、その傾向は調査年によって変わりませんでした(図28)。同様に、早期大腸がんの割合も施設間においてとかなり差異がみられます(図29)。
2. まとめ
1) がんの発生状況
がんの発症は全ての部位のがんを含めますと男女ともに70歳代にピークがみられますが、女性に特有の乳がんや子宮がんの発生は20~50歳代に多くみられます。
2) がん検診・健康診断・人間ドックの役割
胃がん、大腸がん、乳がん、子宮がん、前立腺がんが検診・健康診断・人間ドックで発見された場合、早期がんである割合が高いことが2008年のがん登録データでも示されました。
3) 医療機関によるがん進行度のばらつき
胃がんあるいは大腸がんと診断されたときの早期がん・進行がんの割合は、施設間で大きな差があることが2007年のみならず2008年の院内がん登録データでも明らかとなりました。がんの治療成績は患者さんの年齢や合併症の有無に加えて、がんの進行度によっても予後は大きく異なりますので、施設間のがん治療成績を比較する場合には、その医療機関を受診された患者さんの状態を考慮に入れた比較が重要です。